おわりに

今年度も1年間という長い期間で試験栽培・雁皮紙の処理から紙漉き及び和紙を活かした体験プログラムを行いました。特に石州半紙技術者会のご協力で石州和紙と出雲民藝紙がコラボし、会長・西田誠吉氏の講演や川平正男氏と安部信一郎の紙の漉き比べがライブ配信できたことは、島根県の手漉き和紙の誠実さ、優秀さを見ていただけたと思います。

コロナ禍が続く中、人数の規制、感染予防対策と問題をたくさん抱えた中で行ないましたが、和紙だるまづくりや障子張り、墨を摺り筆で描くなど少人数で、より丁寧な体験プログラムになり、楽しみながら手漉き和紙を理解いただけたことと思っています。

今年度行ないました手漉き和紙生産者アンケート調査の結果は、集計の速報値として報告いたします。頂いた生産者の方のご意見や詳しい情報、分析結果は次年度「アンケート調査報告書」として刊行いたします。

今回も手漉き和紙生産者の方々のご協力により情報をまとめることができました。ご協力いただいた生産者の方々に心から感謝いたしております。今後、更に必要な課題を提示したいと思っています。

また、トロロアオイや三椏栽培研修におきましても2年目となりました。トロロアオイは育てやすいのですが、やはり手間がかかり細かな作業が多いです。良いトロロアオイの根を収穫するために、更に実験栽培が必要となります。

三椏の栽培に関しましても、初年度は手探り状態でしたが、前年度の失敗から学び、更に

研究を重ねました。地域の高齢者の方から、昔の話として聞き取り調査を続ける中で、実際に栽培された方に出会い指導を受けることができましたことは、大きな力と自信につながりました。

安部榮四郎が言っていた「生産者は原点に帰れ」という言葉を改めて強く感じます。日本の気候風土で育つのが日本の文化です。同じ原料でも紙質は全国各地で違いが出ます。漉き方ひとつとっても違うのです。このように和紙に個性があることを知らない方も多いでしょう。

これから初めて和紙に出会う方に、「日本の手漉き和紙」の良さを知っていただけるよう、また出雲民藝紙も正しく継承できるよう努力していきます。

本文の中でも記事にしておりますが、松江市内の方に貴重な雁皮の皮を頂きました。雁皮は山に自生しているものを使います。まだ調査中ですが、探せば、まだまだあることが分かりましたが、山の管理ができず竹が繁殖し山の植生が変わってきました。雁皮もこれからどうなるのか不安を抱いています。安部榮四郎は、国の重要無形文化財雁皮紙保持者でした。後継者の安部信一郎(孫)も、この雁皮紙で県指定を受けております。しかし、紙漉き屋は原料がないと紙が漉けないと榮四郎が言っていましたが、今や国産の原料が不足しています。不足の源因は生産者の高齢化で、山からの切り出しができなくなったためです。紙漉き用具の作り手も国内で10名程度です。今後、日本の手漉き和紙を正しく伝えていくため、間違った情報を後世に伝えるべきではありません。

何が必要か? 原料・紙漉き用具・紙漉き職人 そのすべてが欠けることなく揃い、地産地消、自給自足、適切な言葉ではないかもしれませんが、原料も海外に頼ることなく地域で育て、伝統文化を地域の力で支え伝えてこそ手漉き和紙本来の個性が出てきます。理想ではありますが、このように方向が変わっていくことと推測し期待しています。

手漉き和紙生産者アンケートの調査結果が出る前から、我々は伝統工芸の継承の困難さという現実と向き合いながら「和紙を未来へ繋ぐ」活動を続けています。

和紙だけでなく日本の特有な伝統工芸を失いたくありません。一人の力は小さいですが、地域全体の問題として官民はもちろんのこと、みんなで取り組むことが重要になってくると思っています。


和紙を未来へ繋ぐ事業実行委員会

事務局  安部己図枝