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―和紙を未来へ繋ぐ―






 令和2年度は、安部榮四郎記念館が中心となり、八雲中央公民館・松江工業高等専門学校と実行委員会を構成し「和紙を未来へ繋ぐ事業実行委員会」として活動してきました。

 実行委員会は、現在日本の伝統工芸「手漉き和紙」を周知伝承する事業に取り組んでいます。

 島根県は人口が少なく、少子化が進む過疎地域ですが、ものつくりに関しては昭和初期より民芸運動が盛んだったこともあり、今も多くの伝統工芸を有しています。国の重要無形文化財「雁皮紙」保持者だった故・安部榮四郎も民芸運動に加わり、良質な和紙にこだわり「千年先の自分の紙が見たい、良いものは残ります、いいものはいい!!」と言っていた言葉は、今後の手漉き和紙の未来を決めるといっても過言ではありません。   

 2016年に全国手漉き和紙生産者アンケート調査を実施しましたが、そこで明らかになった問題点、課題は深刻でした。和紙生産者は10年前には400件あったものが200件になり、減少速度が増していき単純計算で約3・40年後には手漉き和紙が無くなるのではないかという危機感と不安な結果でした。

 今日、和紙業界は原料・漉き用具すべて不足してきて、原料も海外に頼る産業になりつつあります。そこで、実行委員会では手漉き和紙の抱える問題の解決につながるよう活動を始めました。


 アンケート調査で明らかになった課題は、

  ① 和紙原料の不足(原料農家の高齢化による国産原料の不足)

  ② 後継者がいない

  ③ 販路の開拓と製品開発の問題

  ④ 紙漉きに必要な用具の調達が出来ない(用具生産者の高齢化に伴う廃業、紙漉き

    生産者と用具生産者の情報不足)


などです。今年度から行っている「和紙を未来へ繋ぐ事業」は課題をいかに解決していくかに焦点を絞り、手漉き和紙に欠かせない植物性粘液質を取り出すトロロアオイの根の栽培と和紙の原料となるジンチョウゲ科の三椏の栽培を試みました。もともと栽培をしていた地域なので、高齢者からの聞き取り調査、植物の分布調査を行いながら、過去に栽培していた山林(すぎ・檜の植林してある山の北側で水はけがよい斜面)を栽培地の候補に決めました。トロロアオイの栽培は、休耕田を借り試験栽培し、ある程度成果を上げました。三椏栽培は種の採取、挿し木、元局納三椏の農家から苗を採らせていただきすべてを試みます。ただ三椏の栽培は3年から5年必要としますからすぐに結果が出るわけではありません。今後も活動を続ける忍耐と努力を必要とします。

 しかし伝統工芸全般に言えますが、今が日本の工芸が生き残り文化を伝えることが出来る瀬戸際です。国内ですべて自給できてこそ、今後日本の文化財を修復する時に役立ち、伝統工芸の維持発展があると思っております。

 また体験プログラムとして8月に「和紙を活かす!―紙漉き体験とうちわ作り、和紙と写真を未来へ残す」、11月12月に「和紙を知る!!―出雲民藝紙の全行程を体験し和紙工芸品作りに挑戦」を行いました。募集条件はすべてに参加できる方です。なかなか厳しい条件でしたが、和紙は漉くだけが仕事ではないので原料作りから始め、漉いた紙を利用し和紙工芸作品も作りました。参加者の感想でもわかりますが、和紙の本質を実感された充実した体験となりました。

 さらに、後継者育成も松江工業高等専門学校と連携し、紙漉きの技術の電子データ化に取り組んでいます。今年度は熟練した紙漉き職人と紙漉き道具にモーションセンサーを付け、動きのデータを記録しました。来年度はこのデータをもとに後継者の動きと比較しながら上達度を測り育成に利用します。どのような結果になるのか楽しみにしています。

 予定では2年後「原料栽培、道具の記録、和紙の活用、技術のデータ記録」として和紙製造レシピ本にまとめ書籍化し後世に伝える予定です。

 この事業は、地域の理解、官民の連携、そして沢山の住民の協力を必要としました。人材育成はものつくりの人や技術を育てるだけではありません。生産者側もしなくてはいけないことが沢山あります。和紙で例えるなら、誠実な仕事をし、和紙で人の心を豊かに、また良質な和紙により使う側の心と目も育てる重要な役割もあります。文化を未来に伝えるということは、今が最終ではなく、長い歴史の通過点でしかありません。時代時代で記録の方法は変わっていきますが、正しく伝えることを一つの目標にしています。

 この事業をきっかけに、ご協力頂いた方たちに心から感謝しています。


                  令和3年3月

                  和紙を未来へ繋ぐ事業実行委員会

                  事務局  安部己図枝




5月1日~27日 和紙を未来へ繋ぐ事業実行委員会令和2年度活動の記録展を開催いたします。

場所:松江市立図書館展示ホール

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